チェーンワックス化のやり方と現実|完全脱脂して、駆動系が静かになった

Gear & Setup

チェーンをワックス化した。

きっかけは単純で、9月に佐渡で190kmのバイクパートを走ることになっていて、駆動系のことを考える時間が増えたからだ。190kmの間、チェーンは休みなく回り続ける。そこで失われるワット、レース後に真っ黒になる手、遠征先での洗浄の手間。どれも小さい話だが、小さい話が190km分積み重なると、無視できない気がしてきた。

正直に言うと、ワックス化は長いこと「面倒くさそうな趣味の世界」だと思っていた。チェーンを外して、鍋で煮る。字面だけ見ると完全に沼だ。ただ、調べていくうちに、これは沼ではなくて運用の話だとわかってきた。初期投資の手間と引き換えに、日々のメンテナンスがほぼ消える。レースを運用する側の発想と、実は相性がいい。

走行約1,000kmのシマノ12速チェーンを、一度まっさらに戻すところから始めた。やってみた記録と、正直な感想を残しておく。

チェーンのワックス化とは何か

通常のチェーンオイルは、油で金属同士の摩擦を減らす。よく回るが、油は埃や砂を吸着する。結果、チェーンの内部で「油+砂」の研磨剤が育ち、チェーンとスプロケットを内側から削っていく。定期的に洗浄するのは、この研磨剤を排出するためだ。

ワックス化は発想が違う。チェーンの油分を完全に除去したうえで、溶かしたパラフィンワックスに浸し、リンク内部までワックスを浸透させる。固まったワックスは埃を吸着しない。つまり研磨剤が育たない。

結果として得られるのは3つ。

  1. 駆動ロスの低減。独立系テストで知られるZero Friction Cyclingの計測では、ワックス系ルブが摩擦性能で上位を占め続けている
  2. 駆動系の長寿命化。チェーン・スプロケット・チェーンリングの摩耗が劇的に減り、消耗品コストが下がる
  3. 汚れない。チェーンを素手で触っても黒くならない。輪行や遠征で、これが想像以上に効く

デメリットもある。それは後半に正直に書く。

今回使ったもの

画像品目用途価格
WWELL 超音波洗浄機 業務用 2L 卓上型 28/40kHz 脱脂の主役¥10,449
GOTAL チェーンディグリーザーの素 超音波洗浄機対応一次脱脂・洗浄液¥2,800
レックスブラックダイヤモンドホットメルトチェーンワックスワックス本体¥10,005(Varuste.net)
ワックスウォーマー コンパクト (ホワイト)ワックス溶解約¥4,000
シマノ(SHIMANO) TL-CN10 クイックリンクツールチェーン脱着約¥4,000
シマノ(SHIMANO) SM-CN910-12 12S用 クイックリンクチェーン接続¥1,200

主要2点(洗浄機とワックス)で約20,500円。脱脂剤や小物を含めて約26,000円、そこにチェーン交換用の工具とクイックリンクを足すと、ワックス化に直接かかったのは約31,000円だった。安くはない。ただ、この内訳のほとんどは何年も使い続けられる設備投資で、消耗するのはワックスとリンクだけだ。

余談だが、実際の買い物の総額は7万円ほどになった。差額の約4万円は、この機会に揃えた一般的な自転車メンテナンス工具代で、ワックス化の費用に数えるのはフェアではないので除外している。工具箱だけが立派に育った。

ワックスにRex Black Diamondを選んだ理由は、Zero Friction Cyclingのテストで繰り返し最上位クラスの評価を取っているからだ。フィンランドのRexはもともとスキーワックスの老舗で、その添加剤技術をチェーン用に転用している。箱の中には白いベースワックス11個と、添加剤が凝縮された黒いブロックが1個。全部を溶かす標準ブレンド(11+1)と、黒1個+白4個で濃くする耐久ブレンド(4+1)が選べる。

入手ルートは2つある。Amazonでも¥17,695で販売されているが、かなり割高だレックスブラックダイヤモンドホットメルトチェーンワックス(Amazon)。私はフィンランドの大型アウトドア・自転車通販「Varuste.net」で購入した。日本語ページがあり、日本への発送にも対応していて、価格は¥10,005。急ぎならAmazon、安さなら個人輸入という選び方になる。いずれにせよ1箱で数十回分使えるので、1回あたりのコストは200〜350円前後の計算だ。

手順:成否は脱脂で9割決まる

先に結論を書くと、ワックス化の作業で一番重要なのは、ワックスを溶かす工程ではない。脱脂だ。チェーン内部に油分が残っていると、ワックスが金属に定着せず、すぐに剥がれる。「ワックス化したけど微妙だった」という話の大半は、脱脂不足が原因と言われている。ただし、チェーン以外にも、ギヤとディレイラーにも油分が残っている。チェーンをワックスに漬け込んだタイミングでスプロケットとリングギヤと前後のディレイラーをしっかりと脱脂しよう。

1. 一次脱脂

チェーンを外し、容器にGOTALのチェーンディグリーザーとともに入れて振る。1,000km分の汚れで、液はすぐに黒くなる。捨てて、新しい液でまた振る。液の色が変わらなくなるまで繰り返す。

2. 超音波洗浄

ここからが今回の本題。超音波洗浄機にチェーンを沈めて回す。一次脱脂であれだけ振ったのに、目に見えない内部の汚れがまだ煙のように出てくる。この「まだ出る」を見ると、ボトル洗浄だけでは届かない場所があることを実感する。液を替えながら、納得がいくまで何度も回した。

3. 判定と乾燥

脱脂完了の判定基準は、チェーンが「シャラシャラ」と乾いた金属音を立てるかどうか。油分が残っていると、この音がしない。仕上げにIPA(イソプロピルアルコール)ですすぐ流儀もあるが、今回は超音波の反復で追い込んだ。

その後、ブロワーで水分を吹き飛ばし、ドライヤーで完全に乾燥させる。水分が残っているとワックスが弾かれるので、ここは妥協しない。

4. ワックスを溶かす

ワックスウォーマー(コンパクトタイプ)で、低温を保ちながらゆっくり溶かす。ブレンドは標準の11+1。ただし1箱全部は溶かさず、比率を保ったまま約1/3だけポットに入れた。小さいウォーマーでも扱える量で、残りは次回以降に取っておける。焦らせるものは何もないので、溶けるのを待つ。

5. 浸漬

溶けたワックスにチェーンを沈め、リンク内部の空気を追い出すように揺らす。数分置いて、引き上げる。ただし、チェーンを入れるとき、最初は中まで入らない。理由は、熱がチェーンで奪われるので、ワックスが一部冷やされて固まるから。ここで、少し、時間をかけて、チェーンが沈むまで時間をかけて確認することが大事。

チェーンを鎮めれたら、少し揺らして空気を抜くこと。空気が残っていると、ワックスが浸透しない。

ワックスがチェーンに浸透するまで20分程度の時間が必要。熱で水分も飛ぶので、ここはしっかりと時間をかける。

6. 乾燥と「パキパキ」

吊るして冷ますと、チェーンは板のように固まる。これで正解だ。リンクを一つずつ折り曲げて、固まったワックスを割っていく。パキパキという音がする。この工程だけは少し楽しい。

7. 装着

新品のクイックリンクで装着して完了。作業時間は、初回で実働およそ4時間だった。慣れれば短くなるはずだが、初回は半日仕事だと覚悟しておいたほうがいい。

走ってみて

最初のテスト走行。走り出してすぐ、駆動系の音が小さくなった——気がした。正直、「気がした」以上のことはまだ言えない。パワーメーターの数字が劇的に変わったわけでもない。ただ、上り坂で少し楽になっている感覚は確かにあって、静かさは体感として残った。プラシーボと言われたら、否定しきれない。この距離ではまだ。

本番のテストとして、琵琶湖一周(ビワイチ)を走った。そこで気になったのは、チェーンの音ではなく、変速のたびに鳴る「ガコッ」という音だった。ワックス化のせいで変速が渋くなったのか、と疑いながら走り続けた。

帰ってから原因が判明した。ワックスは無実だった。チェーンの取り回しを間違えていて、リアディレーラーの一部にチェーンが常時接触するルートで通していたのだ。要するに、自分のミスである。

ワックス運用はチェーン脱着が前提になるが、脱着に慣れていないうちは、こういう初歩的なミスをする。チェーンを戻したら、装着後に全ギアで変速して取り回しを目視確認する。それだけで防げた話だった。

一方で、確信を持って言えることもある。チェーンを指でつまんでも、手が黒くならない。頭では知っていたが、実際にやると妙な感動がある。レース後、真っ黒な手でボトルを触っていたあれは何だったのか、と思う。

レース運用としてのワックスチェーン

私の関心は「速いかどうか」よりも「190kmをどう運用するか」にある。ワックスチェーンの運用は、オイルと考え方が変わる。

  • 再ワックスの周期: ドライ路面で数百km〜が目安。走行ログを見て距離で管理する。都度の洗浄が不要になる代わりに、「距離が来たらポットに戻す」という運用になる
  • レース前の段取り: レース1週間前に再ワックスし、数十km慣らして初期のパキパキ音を消しておく。当日は何もしなくていい状態を作る
  • : ワックスは水に強くない。雨天走行後は早めの再ワックスが必要になる。ここはオイルに劣る
  • 複数チェーンのローテーション: 慣れてきたら、チェーンを2本用意して交互にワックス化しておくと、運用がさらに軽くなる

一度仕組みを作れば、日常のメンテナンスは「たまにポットに戻す」だけになる。毎週末の洗浄と注油から解放されるのは、平日に時間がない社会人アスリートにとって、数ワットより価値があるかもしれない。

正直なデメリット

よかった話だけ書くのはフェアではないので、導入をためらう理由になりそうな点を挙げておく。

  • 初期の手間が重い。完全脱脂は正直、面倒だった。初回は実働4時間。ここで挫折する人が多いのも理解できる
  • チェーン脱着が前提。クイックリンクの運用に抵抗がある人には向かない。シマノ12速リンクは再利用に制限があるので、リンクは消耗品と割り切る必要がある。そして私のように、取り回しをミスるリスクもある
  • 雨に弱い。通勤などで毎日雨でも乗る人には、正直向いていない
  • 初期投資。総額およそ3万1,000円。ただし駆動系の延命効果とオイル・洗浄剤の購入がなくなることを考えると、長期では回収できる計算になる

まとめ:誰に向いているか

ワックス化は、全員に勧めるものではない。ただ、以下に当てはまるなら、検討する価値はある。

  • レースに向けて、駆動系を「当日何もしなくていい状態」にしておきたい人
  • 週末しか乗れず、洗浄・注油の時間を削りたい人
  • チェーンやスプロケットの交換費用を長期で抑えたい人

私はもう、オイルには戻らないと思う。理由は速さではなく、静かさと、手が汚れないことと、レース前に考えることが一つ減ったことだ。

佐渡の190kmは、このチェーンで走る。結果は後日、レースレポートに書く。

チェーンのワックス化、代行します

この記事の手順——GOTALでの完全脱脂、超音波洗浄、Rex Black Diamondのホットワックス——を、あなたのチェーンで代行します。

  • 料金: ¥7,480(シマノ純正クイックリンク新品交換込み)
  • 対応: シマノ11速・12速(それ以外は要相談)
  • 納期: チェーン到着から7日以内に返送
  • 受付: 月5本限定

チェーンは車体から外した状態でお送りください。伸び率0.5%以上(チェーンチェッカー計測)のチェーンは駆動系を傷めるため施工せず、そのまま返送します。

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