佐渡国際トライアスロン(Aタイプ)リレー・バイク190km完走記——計画は15W下に置いてきた

Race Day

公式リザルトから書きます。バイクスプリット6時間54分49秒。チーム総合7位、12時間22分03秒。

数字だけ見れば、8週間前に立てた「6時間半〜7時間」の予測レンジに収まっていて、リレーのバイク担当としては及第点に見えるかもしれません。ただ、中身は計画通りではありませんでした。NP(標準化パワー)163〜178Wで巡航するはずが、実際は149W。15W下です。

この15Wは「出せなかった」のではなく「置いてきた」のだと、先に言っておきます。それが正解でした。

スタート前、市長の予言

リレーのバイク担当は、スイム担当が海から上がってくるまで待つ時間があります。その待機エリアで、市長が選手の緊張をほぐす話をしてくれました。

その中にこんな一言がありました。「島を曲がった瞬間から、酷い風が吹くぞ」

聞いた時は、ご当地あるあるの軽い脅しだと思っていました。

横殴りの風と、握れないDHバー

島を曲がった瞬間、分かりました。市長は正しい。

酷いどころではない、横殴りの風でした。TTバイクのディープなフロント周りが風をまともに受けて、車体ごと横に持っていかれそうになるのを、上半身でこらえながら進む。倒れるかと思いました。DHバーを握れない。正確には握ってはいたのですが、体のほうが「今エアロポジションを取ったら死ぬ」と主張してきて、それを説得して前傾に戻すまでに、ずいぶん時間がかかりました。

しばらくすると今度は向かい風です。時速25km/hしか出ないのに、体感は50km/hで走っている時と同じ負荷。ここで、脚を使ってしまいました。レース前に何度も自分に言い聞かせた「序盤で貯金を作らない」が、風の前であっさり崩れた瞬間です。

Z坂は「これじゃない」、14%は「これか」

Z坂は、コースのかなり序盤に現れます。事前にプロフィールを頭に入れていたはずなのに、実際に登っている最中は「これじゃないだろう」と思っていました。あまりにも早く来すぎている。

その後、斜度14%の登坂が目に入った時に「これか」と勝手に納得してしまい、結局どちらが本物のZ坂だったのか、走っている間は最後まで分かっていませんでした。分かっていたことは一つだけ。太ももの前側が、痛い。序盤の風で使った脚の請求書が、もう届き始めていました。

攣る、食べる、飲む、治る

登りのたびに、太ももが攣るようになりました。

エイドステーションでおにぎりを食べ、プレシジョン(電解質パウダー)の袋をそのまま流し込むと、1分ほどで攣りが解消して普通に走り出せてしまうので、この即効性には正直驚きました。効く。攣り→電解質→復活のサイクルを、この日は2回転しています。

風が柔らかくなった区間では、同じ感覚で踏んでいるだけで勝手に時速40km/hが出ました。行きの向かい風で失った時間を、海沿いの追い風が少しずつ返してくれる。佐渡一周は、風との貸し借りのコースです。

140km、補給を忘れていたことに気づく

140km付近で、体が重くなりました。

原因は単純です。補給食を、全然食べていませんでした。8週間かけて「60〜90g/hを時間で機械的に摂る」練習を繰り返してきたはずなのに、風と攣りへの対処で頭がいっぱいになった人間は、あれほど練習した「食べる」という動作をあっさり忘れるのです。

そこからはDHバーを握ったまま、プレシジョンを流し込みました。補給は「覚えておくもの」ではなく「仕組みにするもの」だと、190km走ってようやく体で理解しました。

166km、小木坂は壁に見えた

166km付近のウォーターエイドが見えた時、「立ち止まるのも辛いな、脚が辛いな」と考えていました。

その直後、小木坂が現れました。壁に見えました。壁だよ、なんだよこれ、と声に出ていたかもしれません。サイコンのケイデンス表示は25。パワーは300W。FTPの125%を、ケイデンス25で踏んでいる。トレーニング理論のどこにも載っていない走り方です。それでも、降りませんでした。

登りの途中にエイドがあり、足をついた瞬間、また前腿が攣りました。プレシジョンの袋をまた流し込む。今度は3分で回復。この電解質との付き合い方だけは、本番で完全にマスターしました。

焦りと、ノーブレーキの下り

小木坂の後も向かい風が続きました。進まない。登りではどんどん遅れていく。「もうダメかもしれない」という焦りが出てきて、その後の下りをノーブレーキで走りました。

冷静に考えれば褒められた走り方ではありません。ただ、あの時の自分には、下りで取り返す以外の選択肢が見えていませんでした。リレーで待っているラン担当の顔が、ずっと頭にありました。

最後は腹圧だけで帰ってきた

市街地に入ってからは、テクニックも戦略もありません。腹圧に気合を入れて、残っていた力を全部出し切りました。

フィニッシュ後は、もうへとへと。バトンは渡した。仕事は終わった。それだけでした。

数字の答え合わせ——なぜ15W下が正解だったのか

帰ってからパワーデータを見ました。

  • NP 149W(計画:163〜178W)
  • 平均心拍142 / 最大168(閾値心拍175には最後まで届かず)
  • 獲得標高1,630m
  • トレーニング効果5.0(測定上限)

注目してほしいのは心拍です。3週間前の練習ではNP175Wを平均心拍122で回せていたのに、本番はそれより26Wも低いNP149Wで心拍142まで上がっている。同じ体なら起きない乖離です。

種明かしをすると、レース前の2週間、体調を崩してほぼ乗れていませんでした。スタートラインに立った時点で、エンジンは8月のベストではなかった。その体で計画のNP170Wに固執していたら、小木坂より手前で終わっていたと思います。

体の声に合わせてペースを15W下げる。その判断を6時間54分間続けられたことが、この日いちばんのファインプレーでした。パワーメーターは「上げるための道具」だと思われがちですが、本当の価値は「下げる勇気に根拠をくれること」にあります。

佐渡のバイク190kmから持ち帰った3つのこと

  1. 風はパワー計画を壊しにくる。横風でエアロポジションが取れない時間、向かい風で体感負荷が跳ね上がる時間を、計画に最初から織り込んでおくこと。
  2. 攣りには電解質が本当に効く。おにぎり+電解質パウダーで1〜3分で復活するという体験を2回した。攣り対策は「攣らない準備」と「攣ってからの手順」の両方を持っておくべき。
  3. 補給は意志ではなく仕組み。風や痛みで頭がいっぱいになると、人は食べ忘れる。サイコンのアラートなど、考えなくても口に入る仕組みを作ること。

チームは総合7位でフィニッシュしました。スイム担当が作ってくれた流れを守り、ラン担当が最後まで運んでくれた12時間22分。ソロの226kmとはまったく違う、「誰かのために踏む190km」でした。

次は月末の鈴鹿。今度はチームTTです。佐渡で学んだ「下げる勇気」と、これから仕込む「牽引の設計」を持って行きます。

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