制限17時間でバイクを何時に終わらせればいいか、計算したことはあるか

Training & Planning

レースの2ヶ月前、僕はExcelを開いて初めてこの計算をした。

制限時間17時間。スイムに2時間、トランジション合計で15分、バイクに9時間。ここまでで11時間15分。残りは5時間45分。42.2kmを5時間45分で走ればいい。キロ8分10秒ペース。

数字だけ見ると、余裕がありそうに見えた。

でも実際にレースを走ってみたら、バイク180kmの後にキロ8分で走り続けることがどれだけキツいか、身をもって思い知った。制限時間まで残り50分。余裕なんてなかった。

この記事では、僕がレース前にどうやってペースを組んだか、そして当日どこが計算通りにいって、どこが崩れたかを全部書く。

まず、17時間を分解する

226kmのレースは「17時間を3種目+トランジションでどう配分するか」の問題だ。

僕がレース前に立てた計画と、実際の結果はこうだった。

種目計画実際
スイム 3.8km1時間55分1時間52分-3分
T110分8分32秒-1分28秒
バイク 180km9時間00分9時間12分+12分
T27分5分18秒-1分42秒
ラン 42.2km5時間30分5時間51分+21分
合計16時間42分16時間9分-33分

合計では計画より33分早く帰ってきた。でも内訳を見ると、バイクとランは計画をオーバーしている。スイムとトランジションで貯金を作れたから結果的に帳尻が合っただけで、バイクが計画通り9時間ちょうどで終わっていなかったら、ランの5時間51分は相当ギリギリだった。

この表が言いたいのは、計画は「17時間ジャスト」で組んではいけないということ。何かが崩れたときの余白がないと、レース後半がただの恐怖になる。

「16時間で完走する計画」を立てて、17時間の枠に収める

僕のやり方はシンプルだった。制限時間の17時間ではなく、16時間で完走する前提でペースを組む。そうすれば、1時間の安全マージンが生まれる。

1時間あれば、パンク修理(15分)、トイレ2回(合計10分)、補給所での給水ロス(合計10分)、足が攣って止まる時間(10〜20分)。こういう想定外に対応できる。

「17時間ギリギリの計画」で走り始めて、途中でパンクした瞬間に「もう間に合わない」と思うのと、「1時間余裕がある計画」でパンクしても「まだ大丈夫」と思えるのでは、メンタルへの影響が全然違う。

スイム:2時間以内に上がる

スイムの制限時間は2時間20分。僕の計画は2時間以内。

プールで100mを3分で泳げるなら、3.8kmは単純計算で1時間54分。ただし、レースはプールじゃない。海だ。

ウェットスーツを着て泳ぐ違和感、数百人が一斉にスタートするバトル、波、潮流、コースロープがない中でのコース取り。プールのタイムより10〜15%遅くなると思っておいた方がいい。プールで100m/3分なら、レースでは100m/3分20秒くらいの想定で組む。

僕は結果的に1時間52分で上がれた。プールのタイムからの計算とほぼ一致していた。スイムは計画が立てやすい種目だと思う。大きく崩れることも少ない。

一つだけ気をつけたのは、スイムで飛ばさないこと。スイムで5分縮めるために全力で泳ぐと、バイクの序盤で心拍が下がらなくなる。3.8kmを速く泳ぎ切ることより、バイクに余力を残して上がることの方が、226km全体では価値がある。

バイク:「平均20km/h」を死守する

バイクは一番ペース管理が大事な種目であり、一番崩れやすい種目でもある。

180kmを9時間で走るには、平均20km/h。これは決して速いペースじゃない。ロードバイクで平地を走れば、初心者でも25〜28km/hくらいは出る。

だからこそ危ない。序盤に「余裕だ」と思って25km/hで飛ばすと、100kmを超えたあたりで脚が売り切れる。風向きが変わったり、登りが増えたりして、後半に15〜17km/hまで落ちる。前半の貯金は一瞬で溶ける。

僕がバイクで意識したのは「前半を抑えて、後半を耐える」。具体的にはこう配分した。

0〜60km(前半):平均22km/h程度。体感としては「まだまだ余裕」。息が弾まない程度。会話ができるくらい。

60〜120km(中盤):平均20〜21km/h。「このペースなら最後まで行ける」と思える程度。ここで無理をしない。

120〜180km(後半):平均18〜20km/h。疲労が蓄積して自然にペースが落ちてくる。落ちても焦らない。18km/hを下回らなければ時間内に収まる。

結果的に、バイクは9時間12分。計画の9時間から12分オーバーした。原因は120km以降の向かい風区間で17〜18km/hまで落ちたこと。後半の失速は想定内だったけど、風は想定外だった。

バイクで一番やってはいけないことは、前半に飛ばすこと。これは何度でも言う。周りの速い人に引きずられて25km/hで走ると、ランが地獄になる。バイクは「速く走る種目」じゃなくて、「ランのために脚を残す種目」だ。

ラン:キロ8分を基準に、崩れることを前提にする

42.2kmをキロ8分で走ると、5時間37分。僕の計画は5時間30分だった。

普段のジョギングでキロ8分は「ゆっくり」に感じるかもしれない。でも、バイク180kmの後の42.2kmは、フレッシュな状態のフルマラソンとは全く別物だ。

脚が重い。膝が曲がりにくい。ふくらはぎが攣りそうになる。25kmを過ぎたあたりから、キロ8分が「維持するのがやっと」のペースに変わる。

僕のランの実際のペースはこうだった。

0〜10km:キロ7分00〜7分30秒。まだ脚が動く。調子に乗って飛ばしそうになるけど、ここで抑える。

10〜21km:キロ7分30秒〜8分00秒。ペースが安定してくる。ここが一番走りやすい区間だった。

21〜30km:キロ8分00〜8分30秒。疲労が一気に来る。「あと半分」じゃなくて「まだ半分」と感じ始める。

30〜42km:キロ9分00秒〜10分00秒。正直に言うと、35km以降は走ったり歩いたりだった。500m走って200m歩く、みたいなリズム。最後の2kmだけ気合で走った。

合計5時間51分。計画の5時間30分から21分オーバー。後半の失速が計画以上に大きかった。

ここで重要なのは、後半に崩れることを前提に計画を組んでいたこと。キロ8分で42.2kmを均等に走る計画だったら、30km以降のペースダウンで完全にパニックになっていたと思う。「前半は抑えて、後半は崩れても大丈夫」という設計にしていたから、35kmで歩いても「想定内」だと思えた。

「歩く」ことは失敗じゃない

ラン後半に歩くことを、僕は最初「負け」だと思っていた。でもレースを走ってみて、考えが変わった。

30km以降、僕の周りにはたくさんの人が歩いていた。16時間台の完走者はもちろん、14時間台で帰ってくる人の中にも、戦略的に歩きを入れている人がいた。

走りと歩きを交互に繰り返すと、平均ペースはキロ9〜10分になる。42.2kmをキロ10分で通しても7時間2分。制限時間の枠にはまだ余裕がある。

だから、ラン後半の計画に「歩き」を織り込んでおくのは現実的な選択だ。「35kmからはキロ10分でもいい」と決めておけば、実際に脚が止まったときに焦らなくて済む。

心拍数の話

元の記事では心拍ゾーンやFTP(機能的閾値パワー)について詳しく書いていたけど、正直に言うと、僕はレース中にそこまで細かいデータを見ていなかった。GPS時計もパワーメーターも持っていなかったから。

心拍数の管理ができると、たしかにペース設計の精度は上がる。「心拍150以下でバイクを走り切れば、ランで脚が残る」みたいな基準を持てる。

でも、心拍計を使ったペース管理は、練習でデータを蓄積して初めて意味を持つ。自分の「心拍150」がどのくらいの体感強度なのか、どのくらいの速度に対応するのかが分かっていないと、レース中に見る数字は意味不明な記号でしかない。

初挑戦で心拍データの蓄積がないなら、体感で管理すればいい。

スイム:息が上がらない程度。会話はできないけど、パニックにはならないくらい。

バイク:会話ができるくらい。鼻歌が歌えるくらい。「余裕すぎる」と感じるくらいでちょうどいい。

ラン前半:「このペースなら42km行ける」と思える程度。少しでも「キツい」と感じたら、その時点でオーバーペース。

ラン後半:何でもいいから前に進む。ペースの概念は捨てていい。

レース前にやっておくべき計算

ペース設計は、ExcelでもノートでもiPhoneのメモでもいい。やることは1つだけ。「各種目に何時間使えるか」を逆算して、自分の実力と照らし合わせること

具体的な手順はこうだ。

まず、スイムの予想タイムを入れる。プールで1,500mのタイムを測っていれば、そこから3.8kmの予想が出せる。測っていなければ、「2時間」と仮置きする。

次にトランジション。合計15分で見積もっておけば十分。

バイクは、普段の練習で50〜80kmを走ったときの平均速度を基準にする。その平均速度で180kmを割る。普段の平均が22km/hなら、レースでは20km/hくらいに落ちると想定して、180÷20=9時間。

最後に、17時間からスイム・T1・バイク・T2を引いた残りがランの持ち時間。その持ち時間を42.2kmで割れば、必要なキロペースが出る。

ここで出た数字が「キロ8分30秒以内」に収まっていれば、完走の現実性はかなり高い。「キロ10分以上」が必要な計算になったら、バイクのペースかスイムの予想タイムを見直す必要がある。

僕がExcelに入れていた数字

レース前に作った計算表の中身を書いておく。

楽観シナリオ標準シナリオ悲観シナリオ
スイム1時間45分1時間55分2時間10分
T18分10分15分
バイク8時間30分9時間00分9時間45分
T25分7分10分
ラン5時間00分5時間30分6時間30分
合計15時間28分16時間42分18時間30分

楽観シナリオは「全部うまくいった場合」。標準シナリオが「計画通りに走れた場合」。悲観シナリオは「パンク・体調不良・向かい風が全部来た場合」。

悲観シナリオが18時間30分で制限時間の17時間を超えていたから、「最悪のケースでは完走できない」という現実は分かっていた。だからこそ、標準シナリオを死守することに集中した。「最悪を想定しつつ、標準を狙う」。これが僕のペース設計の全てだった。

実際の結果は16時間9分。標準シナリオより33分速かった。スイムとトランジションで貯金を作れたのが効いた。

最後に

ペース設計は、数字をいじっている段階では「ただの計算」に見える。制限17時間を3つの種目に分配して、キロ何分で走ればいいか割り出す。小学生の算数だ。

でも、この計算をやるのとやらないのでは、レース中の心の持ちようが全然違う。

バイクで向かい風に苦しんでいるとき、「今のペースでも、ランに5時間45分残せる」と分かっていれば耐えられる。ラン30kmで歩き始めたとき、「キロ10分でもあと75分ある」と分かっていれば折れずに済む。

逆に、計算せずに走ると、レース中に「間に合うのか分からない」という不安がずっと付きまとう。この不安は、体力的な疲労と同じくらい消耗する。

レースの2ヶ月前でいい。Excelでもメモ帳でもいい。17時間を分解して、自分の実力を当てはめてみること。計算結果が「行ける」と示してくれたら、あとはその計画を信じて走るだけだ。

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